背景と応用シナリオ
Salesforce 管理員の皆様、こんにちは。日々の業務において、私たち管理者の重要な責務の一つは、ユーザーが Salesforce をより効率的かつ直感的に利用できるよう、最適な環境を構築することです。特に、営業担当者やサービス担当者のように、多忙なスケジュールの中で迅速な情報アクセスを必要とするユーザーにとって、レコードの概要を瞬時に把握できるかどうかは、生産性に大きく影響します。
ユーザーが取引先レコードを開いたとき、「この取引先の年間売上は?」「業種は?」「担当者は誰?」といった主要な情報を得るために、詳細ページを延々とスクロールしなければならないとしたら、どうでしょうか。これは時間の無駄であり、ユーザーのストレスにも繋がります。
この課題を解決する強力な機能が Compact Layouts (コンパクトレイアウト) です。Compact Layouts は、レコードページの最も目立つ場所、つまりレコードの「顔」となる部分に表示される情報を定義するための設定です。
具体的には、以下の場所で Compact Layouts が活用されます。
- Salesforce Lightning Experience のレコードヘッダー (Highlights Panel): レコード名の下に表示されるハイライトパネルに、最大7つの主要項目を抜粋して表示します。
- Salesforce Mobile App: モバイルアプリケーションでレコードを開いた際に、画面上部に表示されるカード形式のサマリー情報です。外出先からでも重要な情報を一目で確認できます。
- Outlook/Gmail 連携: Salesforce とメールクライアントを連携させた際に表示されるサイドパネルでも、レコードの概要として Compact Layouts の情報が利用されます。
- 活動タイムライン: 関連レコードにマウスポインタを合わせたときに表示されるポップアップにも、Compact Layouts で定義された項目が表示され、コンテキストを素早く理解するのに役立ちます。
このように、Compact Layouts を戦略的に設定することで、ユーザーはレコードの詳細ページを深く掘り下げることなく、最も重要な情報を一目で把握できるようになります。これは、ユーザーの作業効率を飛躍的に向上させ、Salesforce プラットフォーム全体の定着化を促進するための、管理者にとって不可欠なツールと言えるでしょう。
原理説明
Compact Layouts の仕組みは非常にシンプルです。各オブジェクト(標準オブジェクトおよびカスタムオブジェクト)に対して、どの項目をハイライトとして表示するかを定義する「テンプレート」のようなものだと考えてください。
各オブジェクトには複数の Compact Layouts を作成することができますが、有効にできる(割り当てられる)のは常に1つだけです。この割り当てられたレイアウトが「プライマリコンパクトレイアウト」として、そのオブジェクトのすべてのレコード表示に適用されます。
ここで、多くの管理者が混同しがちな Page Layouts (ページレイアウト) との違いを明確にしておくことが重要です。
- Page Layouts: レコード詳細ページの「胴体」部分全体の構成を制御します。表示する項目、セクション、関連リスト、ボタンなどを細かく定義でき、ユーザーのプロファイルやレコードの Record Types (レコードタイプ) に応じて異なるレイアウトを割り当てることが可能です。
- Compact Layouts: レコードページの「頭」にあたるハイライト部分のみを制御します。プロファイルやレコードタイプに基づいた割り当てはできず、オブジェクト単位で1つのレイアウトがすべてのユーザーに適用されます。
この「オブジェクト単位での一括適用」という特性は、Compact Layouts を設計する上で最も考慮すべき点です。つまり、どの役割のユーザーにとっても共通して重要だと言える、普遍的な情報を選び出す必要があります。
また、Compact Layouts には System Default (システムデフォルト) という組み込みのレイアウトが存在します。カスタムの Compact Layout を作成して割り当てるまで、すべてのオブジェクトはこの System Default を使用しています。これは通常、レコードの Name 項目(取引先名、商談名など)のみを表示する、非常にシンプルなものです。管理者として私たちが設定を行うことで、この部分をはるかに有益な情報パネルへと変貌させることができるのです。
設定手順
それでは、実際に取引先オブジェクトの Compact Layout をカスタマイズする手順を、ステップバイステップで見ていきましょう。ここでは、「取引先名」に加えて、「電話番号」「業種」「年間売上」「所有者」を表示するように設定してみます。
ステップ1:コンパクトレイアウトの作成
まず、新しい Compact Layout を作成します。
- [設定] から [オブジェクトマネージャ] に移動します。
- オブジェクトの一覧から [取引先] を選択します。
- 左側のメニューから [コンパクトレイアウト] をクリックします。
- [新規] ボタンをクリックします。
ステップ2:表示項目の選択
次に、レイアウトに表示したい項目を選択し、その順序を決定します。
- [表示ラベル] に、このレイアウトを識別するための名前を入力します(例:「取引先 主要情報」)。[名前] は自動的に入力されます。
- [選択可能な項目] リストから、表示したい項目を選択します。今回は、「電話」「業種」「年間売上」「取引先 所有者」を選択します。
- [追加] 矢印ボタンをクリックして、[選択済みの項目] リストに移動させます。
- [選択済みの項目] リスト内の項目の順序が、そのまま表示順序になります。一番上の項目が最も目立つプライマリ項目として表示されるため、通常は「取引先名」を一番上に配置します(※Name項目はデフォルトで含まれるため、明示的に追加する必要がない場合が多いです)。
- [上へ] [下へ] ボタンを使って、表示したい順序に並べ替えます。例えば、「電話」「業種」「年間売上」「取引先 所有者」の順にします。
- [保存] をクリックします。
ステップ3:コンパクトレイアウトの割り当て
作成しただけでは、まだレイアウトは有効になっていません。オブジェクトのプライマリレイアウトとして割り当てる必要があります。
- [コンパクトレイアウト] の設定ページに戻り、[コンパクトレイアウトの割り当て] ボタンをクリックします。
- [割り当ての編集] ボタンをクリックします。
- [主コンパクトレイアウト] のドロップダウンリストから、先ほど作成した「取引先 主要情報」を選択します。
- [保存] をクリックします。
ステップ4:確認
設定が正しく反映されたかを確認しましょう。任意の取引先レコードページを開き、ヘッダー部分(ハイライトパネル)に、指定した項目(電話、業種、年間売上、所有者)が設定した順序で表示されていることを確認します。同様に、Salesforce モバイルアプリケーションでも取引先レコードを開き、表示が変更されていることを確認してください。
注意事項
Compact Layouts は非常に便利な機能ですが、設定や運用にあたってはいくつかの注意点があります。
表示項目数の制限
Compact Layout には最大10個の項目を選択できますが、実際に表示される項目数は、閲覧しているデバイスや画面の幅によって異なります。一般的に、デスクトップの Lightning Experience では最大7項目、Salesforce モバイルアプリケーションでは4〜6項目程度が表示されます。したがって、最も重要な項目をリストの上位に配置することが極めて重要です。
項目タイプのサポート
すべての項目タイプが Compact Layout での表示に適しているわけではありません。例えば、Text Area (Long) (ロングテキストエリア) やリッチテキストエリア項目は、内容が切り捨てられてしまい、意図した情報が伝わらない可能性があるため非推奨です。テキスト、数値、日付、数式、参照関係などの簡潔な情報を持つ項目が最適です。
権限と項目レベルセキュリティ (FLS)
管理者として最も注意すべき点の一つが権限です。ユーザーが Compact Layout に設定された項目を閲覧するためには、その項に対する Field-Level Security (FLS) (項目レベルセキュリティ) での参照権限を持っている必要があります。もしユーザーがある項目への参照権限を持っていない場合、そのユーザーの画面ではその項目は空白として表示されます。「特定のユーザーだけ項目が表示されない」という問い合わせがあった場合、まず FLS の設定を確認してください。
割り当ての制約
前述の通り、Compact Layout はプロファイルやレコードタイプごとに割り当てることはできません。オブジェクトに対して1つのプライマリレイアウトが全社的に適用されます。そのため、全部門のユーザーにとって共通の価値を持つ、普遍的な項目を選定する視点が求められます。
リリース管理
Compact Layouts およびその割り当ては、Salesforce のメタデータです。したがって、Change Sets (変更セット) や Salesforce CLI (SFDX) を用いて、Sandbox 環境から本番環境へリリースすることが可能です。リリース作業の際には、レイアウト本体(`CompactLayout` メタデータ)と、その割り当て設定の両方をパッケージに含めることを忘れないでください。
まとめとベストプラクティス
Compact Layouts は、わずかな設定でユーザーエクスペリエンスを劇的に改善できる、費用対効果の非常に高い機能です。最後に、効果的な Compact Layout を設計・運用するためのベストプラクティスをいくつか紹介します。
1. ユーザー中心のアプローチを取る
設定を始める前に、必ず実際のユーザー(営業、カスタマーサービスなど)にヒアリングを行いましょう。「このレコードを見たとき、最初に何を確認しますか?」「一目でわからないと困る情報はなんですか?」といった質問を通じて、本当に必要な情報を特定することが成功の鍵です。
2. 最も重要な項目を先頭に
選択した項目のうち、一番上の項目が最も目立つプライマリ項目となります。取引先であれば「取引先名」、商談であれば「商談名」など、そのレコードを最も的確に表す項目を配置するのが一般的です。
3. 簡潔さを保つ
ハイライトパネルを情報で埋め尽くすのは避けましょう。Compact Layout の目的は、詳細な分析ではなく「一目でわかる概要」を提供することです。最も重要な5〜7個の項目に絞り込むことで、ユーザーは情報を素早く消化できます。
4. 関連オブジェクト間で一貫性を持たせる
例えば、商談、見積、注文といった一連のセールスプロセスで使われるオブジェクトでは、表示する項目(例:取引先名、金額、フェーズ/状況)にある程度の一貫性を持たせることで、ユーザーはオブジェクトを跨いでも直感的に操作を続けることができます。
5. 定期的な見直しと改善
ビジネスプロセスは変化します。半年に一度、あるいは年に一度は、設定した Compact Layout がまだ現状に適しているかを見直す機会を設けましょう。ユーザーからのフィードバックを積極的に収集し、必要に応じてレイアウトを更新していくことが、継続的な生産性向上に繋がります。
私たち Salesforce 管理者は、単なるシステムの維持管理者ではなく、ビジネスの成功を支援するパートナーです。Compact Layouts のような基本的な機能を最大限に活用し、ユーザーが快適に働ける環境を構築することで、Salesforce の価値をさらに高めていきましょう。
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