背景と利用シナリオ
こんにちは! Salesforce 管理者の皆さん。日々、ユーザーがより効率的に業務を遂行できるよう、プラットフォームの改善に取り組んでいることと思います。今日のテーマは、ユーザーエクスペリエンスを劇的に向上させるシンプルかつ強力な機能、Compact Layouts (コンパクトレイアウト) です。
現代のビジネス環境では、スピードが成功の鍵を握ります。営業担当者は移動中にスマートフォンの Salesforce アプリで顧客情報を素早く確認し、サービス担当者は着信と同時に顧客の契約状況や過去の問い合わせを一目で把握する必要があります。しかし、レコードの詳細ページには多くの項目が並んでおり、最も重要な情報を見つけるためにスクロールやクリックを繰り返すのは非効率的です。
ここで Compact Layouts の出番です。Compact Layouts は、レコードの最も重要な情報を、ページの最上部に位置する「ハイライトパネル」やモバイルアプリのヘッダー部分に集約して表示するための設定です。これにより、ユーザーはレコードを開いた瞬間に、最も必要とする情報にアクセスできます。
具体的な利用シナリオをいくつか見てみましょう。
- 営業担当者向け: 取引先レコードを開いた瞬間に、取引先名、電話番号、年間売上、担当者数をすぐに確認できます。これにより、電話をかける前や訪問前に必要な情報を素早く把握できます。
- サービス担当者向け: ケースレコードを開くと、ケース番号、状況、優先度、問い合わせ元の取引先責任者名が一番上に表示されます。これにより、サポート対応の初動を迅速化できます。
- マネージャー向け: 商談の関連リストで、各商談にカーソルを合わせるだけで、商談名、金額、完了予定日、フェーズがポップアップで表示されます。わざわざ各レコードにドリルダウンする必要がありません。
このように、Compact Layouts は、ユーザーが最も頻繁に参照する情報を「一等地」に配置することで、クリック数とスクロール時間を削減し、組織全体の生産性を向上させるための重要なツールなのです。
原理説明
Compact Layouts の仕組みを理解することは、効果的な設定を行う上で不可欠です。技術的な観点から見ると、これは非常にシンプルですが、その適用範囲は広いです。
Compact Layouts は、オブジェクトごとに定義される、項目の順序付きリストです。ここで設定した項目が、以下の場所に表示されます。
- Lightning Experience のレコードヘッダー: 各レコードページの上部に表示されるhighlights panel (ハイライトパネル) に、設定した項目が表示されます。
- Salesforce モバイルアプリ: レコードのヘッダー部分に、カード形式で重要な情報が表示されます。
- Outlook/Gmail 連携: メールクライアント内の Salesforce パネルでレコード情報を表示する際にも、Compact Layout が適用されます。
- 関連レコードのルックアップ項目: 他のレコードのルックアップ項目にカーソルを合わせると表示されるプレビュー情報も、Compact Layout に基づいています。
割り当てのロジック
Compact Layouts の表示は、ユーザーの profile (プロファイル) に基づいて決定されます。各オブジェクトには複数の Compact Layout を作成できますが、実際にユーザーに表示されるレイアウトは以下のルールで決まります。
- まず、ユーザーのプロファイルに特定の Compact Layout が割り当てられているかを確認します。割り当てられていれば、そのレイアウトが表示されます。
- プロファイルに特定の割り当てがない場合、そのオブジェクトに設定されているプライマリ (Primary) の Compact Layout が表示されます。
- カスタムの Compact Layout が一つも作成されていない場合、すべてのユーザーには編集不可能なシステムデフォルト (System Default) のレイアウトが表示されます。
重要な点として、Compact Layout の割り当てはプロファイル単位であり、レコードタイプ (Record Type) 単位ではないことに注意してください。つまり、同じプロファイルのユーザーは、異なるレコードタイプのレコードを閲覧していても、同じ Compact Layout を見ることになります。
レイアウトの構造
Compact Layout に追加する項目の選択と順序が、実際の表示に直結します。
- 最初の項目: レイアウトで選択した最初の項目は、常にヘッダーの最も目立つ場所(タイトル部分)に太字で表示されます。通常は、取引先名、ケース番号、商談名など、そのレコードを識別するための名前項目を設定します。
- それ以降の項目: 2番目以降の項目は、タイトルの下に並んで表示されます。最大10個の項目を追加できますが、実際に表示される項目数は、閲覧しているデバイスの画面幅によって動的に変化します。画面が狭いモバイルデバイスでは、最初の数個しか表示されない可能性があります。そのため、項目の順序が非常に重要です。最も優先度の高い情報を先頭に配置する必要があります。
この仕組みを理解することで、各プロファイルのユーザーがどのようなデバイスで、どのような情報を必要としているかを考慮した、最適なレイアウト設計が可能になります。
設定例とメタデータ
Compact Layouts の設定は、Salesforce の設定メニューから行う宣言的な(コードを書かない)作業です。ここでは、取引先オブジェクトに対して、営業部門向けのカスタム Compact Layout を作成し、割り当てる手順を具体的に説明します。
ステップ1:コンパクトレイアウトの新規作成
- [設定] から [オブジェクトマネージャー] に移動します。
- オブジェクトの一覧から [取引先] を選択します。
- 左側のナビゲーションから [コンパクトレイアウト] をクリックします。
- システムデフォルトのレイアウトが表示されています。[新規] ボタンをクリックします。
- [表示ラベル] に「営業向け取引先レイアウト」、[名前] に「Sales_Account_Layout」と入力します。
- [選択可能な項目] リストから、ハイライトパネルに表示したい項目を選択し、[追加] ボタンで [選択済みの項目] リストに移動させます。項目の順序が重要です。
例として、以下の順で項目を選択します:
- 取引先名 (Account Name) - これは通常、自動的に最初の項目になります。
- 取引先番号 (Account Number)
- 電話 (Phone)
- 年間売上 (Annual Revenue)
- 種別 (Type)
- Web サイト (Website)
- [保存] をクリックして、新しいレイアウトを保存します。
ステップ2:コンパクトレイアウトの割り当て
- コンパクトレイアウトの一覧ページに戻り、[コンパクトレイアウトの割り当て] ボタンをクリックします。
- 現在の割り当て状況が表示されます。[割り当ての編集] をクリックします。
- [プライマリコンパクトレイアウト] のドロップダウンリストから、先ほど作成した「営業向け取引先レイアウト」を選択します。これにより、特定の割り当てがないプロファイルのデフォルトになります。
- プロファイルごとに異なるレイアウトを割り当てることも可能です。例えば、「営業ユーザー」プロファイルの横にあるドロップダウンリストから「営業向け取引先レイアウト」を選択します。
- [保存] をクリックして、割り当てを完了します。
これで、営業ユーザープロファイルを持つユーザーが取引先レコードを閲覧すると、新しく設定した項目がハイライトパネルに表示されるようになります。
メタデータ API での表現
管理者として日常的に触れることは少ないかもしれませんが、Compact Layout は Metadata API (メタデータ API) を通じて XML ファイルとして表現され、環境間の移行(デプロイ)が可能です。開発者や、DevOps プロセスを管理する管理者にとっては重要な知識です。
上記の例で作成したレイアウトは、メタデータとしては以下のような XML ファイル (`Account.object` ファイル内のセクション) で定義されます。
<?xml version="1.0" encoding="UTF-8"?>
<CompactLayout xmlns="http://soap.sforce.com/2006/04/metadata">
<!-- この fullName は API 参照名であり、オブジェクト名とレイアウト名で構成されます -->
<fullName>Sales_Account_Layout</fullName>
<!-- ここに表示する項目の API 参照名を順に記述します -->
<fields>Name</fields>
<fields>AccountNumber</fields>
<fields>Phone</fields>
<fields>AnnualRevenue</fields>
<fields>Type</fields>
<fields>Website</fields>
<!-- 表示ラベルは、Salesforce の UI 上で表示される名前です -->
<label>営業向け取引先レイアウト</label>
</CompactLayout>
この XML ファイルをバージョン管理システムに含め、変更セットや Salesforce DX を用いて他の Sandbox や本番環境にデプロイすることで、設定の一貫性を保つことができます。
注意事項
Compact Layouts は便利な機能ですが、設定や運用にあたってはいくつかの注意点があります。
表示される項目数
レイアウトには最大10個の項目(名前項目を除く)を追加できますが、表示される項目数は画面サイズに依存します。デスクトップのワイドスクリーンでは多くの項目が表示されますが、タブレットやスマートフォンでは最初の4〜5個程度しか表示されない場合があります。最も重要な情報は必ず先頭に配置するという原則を忘れないでください。
項目のアクセス権
ユーザーに項目の Field-Level Security (項目レベルセキュリティ) が付与されていない場合、その項目は Compact Layout に追加されていても表示されません。レイアウトを設計する際は、対象となるプロファイルのユーザーが、選択したすべての項目に対する参照権限を持っていることを確認してください。
サポートされない項目タイプ
テキストエリア(リッチ)、テキストエリア(ロング)、複数選択リストなど、一部の項目タイプは Compact Layout での表示がサポートされていません。これらの項目を選択しようとすると、選択可能な項目リストに表示されません。数式項目はサポートされており、非常に強力なツールとなり得ます。
プロファイルベースの割り当て
前述の通り、割り当てはプロファイルに基づきます。レコードタイプごとにハイライトパネルの表示内容を変えたい、という要件がある場合、Compact Layouts だけでは実現できません。その場合は、動的フォーム (Dynamic Forms) などの他の機能を検討する必要があります。
変更の反映
Compact Layout やその割り当てを変更した後、変更がすべてのユーザーに即座に反映されるまでには、サーバーのキャッシュ等の影響で若干のタイムラグが生じることがあります。変更が反映されない場合は、数分待ってからブラウザのキャッシュをクリアして再確認してみてください。
まとめとベストプラクティス
Compact Layouts は、Salesforce のユーザーエクスペリエンスを向上させるための、簡単かつ効果的な第一歩です。ユーザーが必要な情報に素早くアクセスできるようにすることで、日々の業務効率を高め、データの活用を促進します。
最後に、Salesforce 管理者として Compact Layouts を最大限に活用するためのベストプラクティスをまとめます。
- ユーザー中心で設計する
設定画面を開く前に、必ず対象となるユーザー(営業、サービスなど)にヒアリングを行いましょう。「レコードを開いたときに、まず何を見たいですか?」と尋ねることで、本当に価値のあるレイアウトを作成できます。役割ごとにプロファイルが分かれている場合は、それぞれのプロファイルに最適化されたレイアウトを割り当てることを検討してください。
- 優先順位を意識する
「あれば便利」な情報ではなく、「ないと困る」情報を最優先で配置します。特に最初の4項目が最も重要です。この4項目だけで、ユーザーがレコードの状況を8割方理解できるような設計が理想です。
- 数式項目を活用する
数式項目(特に `IMAGE` 関数)を使うと、情報を視覚的に表現できます。例えば、取引先の評価(高/中/低)に応じて赤・黄・緑のアイコンを表示したり、ケースの SLA 期限が近い場合に警告アイコンを表示したりすることで、ユーザーは一瞬で状況を把握できます。
- シンプルさを保つ
Compact Layout は、あくまで「ハイライト」です。詳細情報を提供するためのものではありません。項目を詰め込みすぎると、かえって情報が探しにくくなります。目的を絞り、表示する項目は最小限に留める勇気を持ちましょう。
- テストを徹底する
設定後は、必ず対象プロファイルのテストユーザーでログインし、デスクトップとモバイルの両方で表示を確認してください。異なる画面サイズでどのように表示が変化するかを実際に体験することで、設計の改善点が見つかります。
これらのベストプラクティスを実践することで、皆さんの Salesforce 組織はさらにユーザーフレンドリーで生産性の高いプラットフォームへと進化するでしょう。ぜひ、今日から Compact Layouts の見直しを始めてみてください。
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