1️⃣ 概要とビジネスシーン
Einstein Discovery は、Salesforce の CRM Analytics (旧 Einstein Analytics) プラットフォーム上で動作する、AI を活用したビジネスインサイトと予測ソリューションです。データの背後にある「なぜ」を解明し、「何が起こるか」を予測し、「最善の行動」を推奨することで、企業がデータ駆動型意思決定を行うことを可能にします。
実際のビジネスシーン
シーンA:金融業界 - ローン申請の最適化
- ビジネス課題:不確実性の高い経済状況下で、ローンのデフォルトリスクを正確に評価し、迅速かつ公平な審査プロセスを確立すること。
- ソリューション:過去のローン申請データ(信用スコア、収入、既存債務、顧客属性など)を Einstein Discovery に投入。Discovery はデフォルトに影響を与える主要な要因を特定し、新しい申請に対するデフォルトリスクスコアを予測するモデルを構築します。この予測はローン承認ワークフローに統合されます。
- 定量的効果:デフォルト率を 15% 削減し、審査プロセスの自動化により承認までの時間を 20% 短縮。
シーンB:小売業界 - 顧客チャーン(離反)の予測と防止
- ビジネス課題:競争の激しい市場において、優良顧客の離反を防ぎ、顧客維持率を向上させること。
- ソリューション:顧客の購買履歴、Web サイトの行動、サポート問い合わせ履歴、契約期間などのデータを活用し、Einstein Discovery でチャーン予測モデルを構築。顧客が離反する可能性が高いと予測された場合、Salesforce Service Cloud や Marketing Cloud を通じて、パーソナライズされたプロモーションや特別オファーを自動的に提供します。
- 定量的効果:顧客チャーン率を 10% 改善し、顧客生涯価値 (CLTV) を 8% 向上。
シーンC:製造業界 - 機器故障の予測保守
- ビジネス課題:製造ラインの機器故障によるダウンタイムを最小限に抑え、計画外の修理コストを削減すること。
- ソリューション:センサーデータ、過去の故障記録、メンテナンス履歴、環境要因などの時系列データを Einstein Discovery に統合。Discovery は機器の故障パターンを学習し、故障が発生する可能性が高い時期を予測します。この予測に基づいて、予防的なメンテナンススケジュールを自動生成し、サービスチームにアラートを送信します。
- 定量的効果:計画外の機器ダウンタイムを 25% 削減し、メンテナンスコストを 12% 削減。
2️⃣ 技術原理とアーキテクチャ
Einstein Discovery は、CRM Analytics プラットフォーム上に構築され、データ準備、モデル構築、予測、そして解釈可能な AI (XAI: eXplainable AI) を提供します。
基礎的な動作メカニズム
Einstein Discovery は、与えられたデータセットから統計モデルと機械学習アルゴリズムを用いて、特定のビジネス目標(例:売上増加、チャーン削減)に最も影響を与える要因を自動的に特定し、将来の結果を予測します。このプロセスは「ストーリー (Story)」として構成され、データセットの準備から、データの探索、モデルの学習、評価、そしてビジネスユーザーへのインサイト提供までを自動化します。
主要コンポーネントと依存関係
- CRM Analytics Platform:Einstein Discovery の基盤となるデータ分析・BIプラットフォーム。データセット管理、データフロー、ダッシュボード機能を提供します。
- データセット (Dataset):Einstein Discovery で分析・予測を行うための構造化されたデータ。Salesforce オブジェクト、外部データベース、CSV ファイルなどから作成されます。
- ストーリー (Story):ビジネス目標(予測したい指標)とデータセットを指定して作成される Discovery の主要な分析単位。目標達成に影響する要因の特定、予測モデルの構築、推奨アクションの提示を行います。
- モデル (Model):ストーリーの学習結果として生成される予測ロジック。
- 予測定義 (Prediction Definition):作成されたモデルを Salesforce レコードにデプロイし、リアルタイム予測を行うための設定。
データフロー
| ステップ | 説明 | 関連コンポーネント |
|---|---|---|
| 1. データ準備 | Salesforce データや外部データを抽出し、整形・統合して分析可能な形式にする。 | CRM Analytics Dataflow/Recipe, データセット |
| 2. ストーリー作成 | ビジネス目標 (例: 売上予測) とデータセットを選択し、ストーリーを生成。Discovery が自動でデータを分析・モデル構築。 | ストーリー, モデル |
| 3. モデルデプロイ | 生成されたモデルを Salesforce レコードへの予測に利用できるようデプロイ。 | 予測定義 |
| 4. 予測実行 | デプロイされた予測モデルを介して、Salesforce オブジェクトのレコードに対しリアルタイムで予測スコアを生成。 | Flow, Apex, Prediction Builder, REST API |
| 5. インサイト表示 | 予測結果と、その予測に影響を与えた要因を Salesforce UI (レコードページ、ダッシュボード) に表示。 | Lightning コンポーネント, CRM Analytics ダッシュボード |
3️⃣ ソリューション比較と選定
Einstein Discovery は強力な予測分析ツールですが、常に最適な選択肢とは限りません。他の関連ソリューションと比較検討することが重要です。
| ソリューション | 適用シーン | パフォーマンス | Governor Limits | 複雑度 |
|---|---|---|---|---|
| Einstein Discovery | 予測、推奨、原因特定が必要な高度な分析。Salesforce 内でのリアルタイム予測と統合。 | 大規模データセットに対応。リアルタイム予測は ConnectApi 経由で迅速。 | データセットサイズ、ストーリー数、予測定義数に制限あり (例: 最大10億行、1000列)。ConnectApi の日次呼び出し制限。 | データセット準備とストーリー設計は専門知識が必要だが、モデル構築は自動化されており比較的低。 |
| Salesforce Report & Dashboard (標準機能) | 単純な集計、可視化、過去データに基づく現状把握。 | 迅速なレポート作成とダッシュボード表示。 | レポートの行数制限 (最大2,000行)、クエリ複雑度制限。 | 非常に低。標準的な Salesforce ユーザー向け。 |
| 外部BIツール (例: Tableau) + 手動分析 | 高度な視覚化、データ探索。外部データソースとの連携。データサイエンティストによる詳細分析。 | 強力な計算能力と視覚化。 | ツール固有の制限。Salesforce との連携は API 経由で、Salesforce の API 制限に準ずる。 | 高。専門知識、インフラ、データ連携の構築が必要。 |
einstein discovery を使用すべき場合
- ✅ **将来のビジネス結果を予測し、積極的に改善策を講じたい場合** (例: 顧客の離反予測、商談の成約確率予測)。
- ✅ **ビジネス目標に影響を与える主要な要因を自動的に特定し、根拠に基づいた意思決定を行いたい場合**。
- ✅ **Salesforce データ内で予測モデルを構築し、Flow や Apex、Lightning コンポーネントを通じてリアルタイムで予測をビジネスプロセスに組み込みたい場合**。
- ✅ **データサイエンスの専門知識が限定的であっても、AI の恩恵を受けたい場合** (自動化されたモデル構築と解釈機能)。
不適用シーン
- ❌ 単純なデータ集計や、過去の傾向を可視化するだけで十分な場合。
- ❌ 高度なデータサイエンスチームがすでに外部の専用ツールやプラットフォームでモデル開発と運用を行っており、Salesforce との連携が不要な場合。
4️⃣ 実装例
ここでは、Apex から Einstein Discovery の予測モデルを呼び出し、予測結果を取得する例を示します。これにより、ビジネスロジック内でリアルタイムの予測を活用できます。
public class EinsteinDiscoveryPredictor {
/**
* @description Einstein Discovery の予測モデルを呼び出し、結果を返します。
* @param predictionDefinitionName 呼び出す予測定義の API 参照名 (Developer Name)
* @param inputRecordData 予測に必要な入力データ (レコードの項目と値の Map)
* @return 予測スコア、予測値、主要因を含む Map
* @throws AuraHandledException 予測呼び出し中にエラーが発生した場合
*/
@AuraEnabled // Lightning Web Component や Aura Component からの呼び出しを許可
public static Map<String, Object> getPredictionResult(String predictionDefinitionName, Map<String, Object> inputRecordData) {
// 戻り値となる結果の Map を初期化
Map<String, Object> result = new Map<String, Object>();
try {
// ConnectApi.SmartDataDiscovery.predict メソッドを使用して Einstein Discovery の予測サービスを呼び出す
// 第一引数: 予測定義の API 参照名 (例: 'Opportunity_Win_Prediction')
// 第二引数: 予測モデルに入力するレコードデータ (例: {'Amount' => 100000, 'StageName' => 'Qualification'})
ConnectApi.SmartDataDiscoveryPrediction prediction =
ConnectApi.SmartDataDiscovery.predict(predictionDefinitionName, inputRecordData);
// 予測結果から必要な情報を抽出
result.put('score', prediction.score); // 予測スコア (例: 成約確率 0.85)
result.put('prediction', prediction.prediction); // 予測値 (カテゴリカルな場合。例: 'Win', 'Loss')
result.put('topFactors', prediction.topFactors); // 予測に最も影響を与えた要因のリスト
// トップ要因の詳細をより使いやすい形式でリストに追加 (オプション)
List<Map<String, Object>> topFactorsDetails = new List<Map<String, Object>>();
if (prediction.topFactors != null) {
for (ConnectApi.SmartDataDiscoveryFactor factor : prediction.topFactors) {
Map<String, Object> factorMap = new Map<String, Object>();
factorMap.put('feature', factor.feature); // 特徴量名 (例: 'Amount')
factorMap.put('value', factor.value); // 特徴量の値 (例: 100000)
factorMap.put('impact', factor.impact); // 予測への影響度 (例: 0.15)
topFactorsDetails.add(factorMap);
}
}
result.put('topFactorsDetails', topFactorsDetails);
// 予測された改善策 (What-If分析の結果) を取得 (オプション、モデル設定による)
// if (prediction.prescriptiveFactors != null) { /* ... 処理 ... */ }
} catch (ConnectApi.ConnectApiException e) {
// Einstein Discovery API 呼び出し固有のエラー処理
System.debug('Einstein Discovery API Callout Error: ' + e.getMessage());
// エラーメッセージをユーザーに適切に表示するため、AuraHandledException をスロー
throw new AuraHandledException('Einstein Discovery 予測エラー: ' + e.getMessage());
} catch (Exception e) {
// その他の予期せぬエラー処理
System.debug('General Error: ' + e.getMessage());
throw new AuraHandledException('予期せぬエラーが発生しました: ' + e.getMessage());
}
return result;
}
}
実装ロジック解析:
@AuraEnabledアノテーションにより、この Apex メソッドは Lightning コンポーネントから直接呼び出すことが可能です。getPredictionResultメソッドは、予測を行うためのpredictionDefinitionName(予測定義の API 参照名) とinputRecordData(予測に必要な入力項目とその値の Map) を受け取ります。ConnectApi.SmartDataDiscovery.predict()は、Einstein Discovery の予測サービスを呼び出すための標準的な Apex メソッドです。このメソッドは、指定された予測定義と入力データに基づいて予測を実行し、結果をConnectApi.SmartDataDiscoveryPredictionオブジェクトとして返します。- 返された
predictionオブジェクトには、score(予測スコア)、prediction(予測されたカテゴリ)、topFactors(予測に最も影響を与えた要因) などが含まれています。 - エラーハンドリングとして、
ConnectApi.ConnectApiExceptionおよび一般的なExceptionを捕捉し、デバッグログにエラーを出力しつつ、ユーザーフレンドリーなエラーメッセージを含むAuraHandledExceptionをスローしています。
5️⃣ 注意事項とベストプラクティス
権限要件
Einstein Discovery の機能を利用するには、適切なライセンスと権限セットが必要です。
- ライセンス:CRM Analytics Plus ライセンス、またはそれを含む Sales Cloud Einstein / Service Cloud Einstein ライセンス。
- 権限セット:
Einstein Discovery Builder:ストーリーの作成、編集、管理を行うユーザー。Einstein Discovery Story Admin:ストーリーとモデルをデプロイし、予測定義を管理するユーザー。Einstein Discovery User:Salesforce レコードページで Einstein Discovery のインサイトや予測結果を表示するユーザー。Manage CRM Analytics:CRM Analytics アプリ、データセット、データフローを管理するユーザー。
Governor Limits
Einstein Discovery 自体には、Apex のトランザクションごとの Governor Limits とは異なる、プラットフォームレベルの制限が存在します。これらの制限は Salesforce のリリースや契約によって変動する可能性があるため、常に最新の公式ドキュメントを参照することが重要です (⚠️ 公式ドキュメントの確認が必要)。
- データセットのサイズ:CRM Analytics データセットは、最大 10 億行、1000 列までサポートされます。
- ストーリーの数:1つのデータセットあたり最大 20 のストーリー。
- 予測定義の数:1つのオブジェクトあたり最大 20 の予測定義。
- ConnectApi 呼び出し:Apex からの
ConnectApi.SmartDataDiscovery.predict()呼び出しは、Salesforce 組織の標準 API 呼び出し制限に計上されます。通常、これは 24 時間あたり数万から数百万の API 呼び出しに制限されます (エディションやユーザー数による)。大量のリアルタイム予測が必要な場合は、非同期処理やキャッシュ戦略を検討してください。
エラー処理
- 一般的なエラーコードと解決策:
ConnectApiException: INVALID_ARGUMENT:予測定義名が間違っているか、入力データに必要な項目が不足している場合に発生。入力データの Map が予測モデルの要件と一致しているか確認してください。ConnectApiException: NOT_FOUND:指定された予測定義が見つからない場合に発生。予測定義の Developer Name が正しいか、デプロイされているか確認してください。- モデルの品質低下:データドリフトやモデルの陳腐化により、予測精度が低下することがあります。定期的にモデルを再学習させ、パフォーマンスを監視してください。
パフォーマンス最適化
- データセットの適切なサンプリングと前処理:大規模データの場合、関連性の高いデータのみを抽出し、欠損値や外れ値を適切に処理することで、モデル学習の効率と精度を向上させます。
- 特徴量エンジニアリング:ビジネスの専門知識を活用し、予測にとってより意味のある新しい特徴量(例: 購買頻度、最近の活動からの日数)を作成することで、モデルのパフォーマンスを大幅に改善できます。
- 予測定義の効率的な設計:Salesforce オブジェクトに予測をデプロイする際、必要な予測のみを実行するようフィルター条件を設定することで、不要な計算を避け、パフォーマンスを向上させます。
- 非同期処理の活用:大量のレコードに対する予測をバッチ処理で行う場合は、Apex Batch や Queueable Apex を使用して、非同期で
ConnectApi.SmartDataDiscovery.predict()を呼び出すことで、API 制限や実行時間制限を回避できます。
6️⃣ よくある質問 FAQ
Q1:Einstein Discovery と Salesforce の標準機能である Prediction Builder の違いは何ですか?
A1:Einstein Discovery は、データ分析、予測、原因特定、改善策の推奨までを行う包括的な AI ツールです。複雑なビジネス課題に対し、自動化されたモデル構築とXAI(解釈可能なAI)を提供します。一方、Prediction Builder は、コーディングなしでカスタムオブジェクトの特定の項目(数値またはブール値)を予測するための簡易ツールで、Discovery ほど詳細な分析や要因特定、改善策の推奨機能はありません。Discovery は Prediction Builder の上位互換であり、より高度なシナリオに対応します。
Q2:Einstein Discovery モデルが期待通りに機能しない場合のデバッグ方法は?
A2:まず、作成したストーリーの「モデル評価」セクションを確認し、モデルの精度(AUC、RMSEなど)や特徴量の影響度を分析します。データセットの質(欠損値、外れ値、データの偏り)や、選択した目標変数、特徴量の妥当性を再評価してください。また、予測が低いレコードの詳細インサイトを確認し、何が予測に影響しているかを理解することも重要です。必要に応じて、データセットの更新、特徴量の追加・削除、モデルの再学習を試みます。
Q3:Einstein Discovery 予測のパフォーマンスを監視する方法は?
A3:CRM Analytics には、データフローの実行状況やデータセットの更新状況を監視する機能があります。また、Apex からの ConnectApi.SmartDataDiscovery.predict() 呼び出しは、組織の API 呼び出し制限に計上されるため、「設定」の「API 使用状況」で監視できます。個別の予測の精度については、定期的に予測と実績を比較するレポートやダッシュボードを構築し、モデルの再学習が必要か判断することが推奨されます。
7️⃣ まとめと参考資料
Einstein Discovery は、Salesforce コンサルタントとしてお客様のビジネス変革を支援する上で不可欠なツールです。データからのインサイト抽出、精度の高い予測、そして具体的な推奨アクションを通じて、企業がよりスマートな意思決定を行い、競争優位性を確立することを可能にします。CRM Analytics との密接な連携により、Salesforce プラットフォーム内でシームレスな AI 活用を実現し、ビジネスユーザーが直接 AI の力を享受できるようになります。
公式リソース
- 📖 公式ドキュメント:CRM Analytics Developer Guide: Einstein Discovery Overview
- 📖 公式ドキュメント:Apex Reference Guide: ConnectApi.SmartDataDiscovery Class
- 🎓 Trailhead モジュール:Einstein Discovery の基礎
- 🎓 Trailhead 学習パス:Get Smart with CRM Analytics (旧 Einstein Analytics)
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