Salesforce Advertising Studioで「超パーソナライズ広告」を追い求めて失敗した話:コンサルタントの自戒

advertising studio で実際にやらかした判断

今から振り返ると、あの時、顧客に「Salesforce CRMのリードステータスに基づいて、商談クローズ済みだけど潜在的なアップセル・クロスセルが見込める層に、Advertising Studioで超パーソナライズされた広告を打ちましょう!」と提案したのが、そもそもの判断ミスだった。

当時、私はSalesforceコンサルタントとして、とにかくCRMデータを最大限に活用し、顧客とのあらゆる接点でパーソナライズを追求することが「正義」だと信じていた。特に、商談が「失注」や「クローズ済み(別の製品カテゴリで成約)」となったリード層に対して、CRMに蓄積された詳細な行動履歴や興味関心データを使って、適切なタイミングで関連性の高い広告を出すことで、LTV向上に繋がるという仮説を立てていた。

「精緻なオーディエンス設計」という名の過剰な複雑化

当時の設計はこうだ。

  1. Salesforce CRM上の特定のカスタムオブジェクトや標準オブジェクト(リード、取引先責任者、商談)のデータを元に、Marketing Cloudの同期データエクステンション(Synchronized Data Extension)を経由してデータを取り込む。
  2. そのデータをさらに加工し、特定の条件(例:「製品Aの商談失注だが、製品BのWebページを過去3ヶ月以内に訪問」や「他社製品で成約済みだが、自社が提供する周辺サービスには興味ありそうな職種」)を満たすリードを抽出するデータエクステンションを作成。
  3. その抽出されたデータエクステンションをオーディエンスとしてAdvertising Studioに同期し、FacebookやGoogle広告に連携する。
  4. さらに、そのオーディエンスに対して、細分化された広告クリエイティブを配信する。

このプロセスを踏めば、まさに「顧客の状態に応じたOne to Oneコミュニケーション」を広告でも実現できる、と顧客には力説していた。彼らも「CRMデータでここまでできるのか!」と期待感が高まっていたのを覚えている。

後から「やらなければよかった」と思った設計:複雑なセグメントの維持コスト

最も後悔しているのは、**「細かすぎるセグメントの維持コスト」** を見誤ったことだ。

確かに、理論上はCRMのあらゆるデータを使って精緻なセグメントを作ることができる。しかし、現実には以下の問題が次々と浮上した。

  • オーディエンスの流動性問題:

    リードや商談のステータスは日々変動する。Marketing Cloudで毎日オーディエンスを更新するにしても、その更新頻度と、広告プラットフォームでのオーディエンスリストのマッチング更新ラグ、そして広告キャンペーンの配信開始・停止のタイミングが常に完璧に同期するわけではなかった。

    特に、CRM側でセグメンテーションの基準となるデータが頻繁に更新される場合、Marketing Cloudのデータエクステンションを常に最適な状態に保つためのSQLクエリの調整や、Journey Builderでの再評価ロジックの複雑化が避けられなかった。

  • マッチ率の現実:

    Salesforce CRMに登録されている「会社のメールアドレス」でFacebookやGoogleにオーディエンスをアップロードしても、必ずしも高いマッチ率が得られるわけではなかった。特にBtoBの場合、個人のSNSアカウントと企業のメールアドレスが紐づいていないケースが多々あり、期待していたリーチ数に全く届かないことが多かった。

    例えば、CRM上で10,000件のターゲットリストがあったとしても、Advertising Studio経由でFacebookにアップロードした際にマッチするのが2,000件程度だったりすると、せっかくの「超パーソナライズ」も水の泡だ。結果的に広告費だけがかかり、費用対効果が見合わないという結論になりがちだった。

  • 運用リソースの逼迫:

    精緻なセグメントに対して、それぞれに合った広告クリエイティブを作成し、運用し続けるのは想像以上に手間がかかる。顧客側には、そこまでのクリエイティブ制作リソースも、広告キャンペーンを細かく管理するリソースもなかった。結局、いくつかの汎用的なクリエイティブに落ち着いてしまい、せっかくのセグメンテーションが活かされきらなかった。

  • 効果測定の複雑化:

    セグメントが細かすぎて、それぞれの広告キャンペーンがどの程度CRMの商談進捗やLTV向上に貢献したのか、直接的なROIを測定するのが非常に困難だった。間接的な効果はあったかもしれないが、具体的な数値として提示できるレベルではなかったため、マーケティング投資の正当性を証明するのに苦労した。


今なら別の選択をする

もし今、同じような要件に直面したら、私は別の選択をするだろう。

まず、**「目的の簡素化」** を徹底する。Advertising Studioで実現したいことは何か? 認知度向上か、特定のコンテンツダウンロードか、既存顧客のエンゲージメント維持か。この目的が曖昧だと、効果測定も、オーディエンス設計も、すべてがブレる。

そして、**「オーディエンスの粗利化」** から始める。最初からCRMの複雑なリレーションを辿って数千件の超ニッチなセグメントを作るのではなく、まずはMarketing Cloudの既存データ(メール開封者、特定ページの訪問者、メールクリック者など)を使って、ある程度のボリュームがあるセグメントから始める。

例えば、こんなアプローチをするかもしれない。

  • シンプル・スタート:

    CRMの「失注リード」全体、または「過去1年間に商談があったが、現在は顧客ではないリード」といった、比較的シンプルな条件でオーディエンスを構成する。この段階では、製品カテゴリや詳細な行動履歴による細分化はしない。

  • Matching Rateの事前見積もり:

    初期段階でCRMデータのサンプルを匿名化して広告プラットフォームでマッチ率をテストする。その結果を見て、そもそも広告配信の母数として十分なリストが存在するかどうかを判断する。もしマッチ率が低ければ、メールアドレスだけでなく、電話番号などの追加データ(ただし、プライバシーポリシーに則って)も検討に入れるよう提案する。

  • パイロット運用とPDCA:

    限られたセグメントとクリエイティブで小さくキャンペーンを始め、効果測定の結果を見てから、徐々にセグメントの深掘りやクリエイティブのバリエーションを増やす。いきなりフルスペックで運用体制を組むのは避ける。

  • リソースの見積もりと顧客との合意:

    「このレベルのパーソナライズを実現するには、これだけのデータ整備コスト、クリエイティブ制作コスト、運用リソースが必要です」と、現実的な費用と労力を事前に明確に伝える。顧客がそれだけのコミットメントができるかどうかの見極めが重要だ。

Advertising Studioは強力なツールだが、その力を過信し、現実的な運用体制やデータ連携の複雑さを無視して「夢」だけを語ると、私のように後悔することになる。

これは当時の自分向けのメモだ。

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