Salesforce管理者として、Einstein 活動キャプチャ導入で後悔したこと

einstein ai で実際にやらかした判断

Einstein 活動キャプチャ (EAC) の導入判断は、私のSalesforce管理者キャリアの中でも特に「もっと慎重に、もっと深く考えるべきだった」と後悔している点だ。

当時の私は、経営層や営業マネージャーからの「営業活動がSalesforceに入力されておらず、データが不足している」「担当者が活動を入力する手間を減らしたい」という強い要望に直面していた。「活動データがないと分析もできないし、CRMとしての価値が半減している」という意見は耳にタコができるほど聞いていた。

そこで目に留まったのが、Salesforceが提供するEinstein 活動キャプチャだった。「メールとカレンダーの活動を自動でSalesforceに同期してくれる!」という謳い文句は、まさに私たちが抱える課題への特効薬に見えたのだ。Apexも開発も不要で、標準機能として数クリックで設定できる手軽さも決め手となった。「これだ!これで一挙に解決だ!」と、ろくにPoCもせず、限られたユーザーで数週間試しただけで、全社展開へと舵を切ってしまった。

後から「やらなければよかった」と思った設計

この安易な判断が、後々に大きな後悔へと繋がった。

プライバシー問題と同期ルールの複雑性

最も大きかったのがプライバシー問題だ。EACの同期設定は、Salesforce側で設定した同期設定グループをユーザーに割り当てるだけでなく、ユーザー自身もSalesforce Inboxの個人設定から同期するメールアドレスやカレンダーを選択・除外できる。この二重構造が、ユーザーの混乱を招いた。

  • 私の当初の考えは、「管理者側で除外ドメインを設定しておけば、プライベートなメールは同期されないだろう」というものだった。しかし、ユーザーの中には仕事用とプライベート用で同じメールアドレスを使い分けている者も多く、管理者側で想定しきれないケースが続出した。
  • 結果として、「なぜ個人的なメールまでSalesforceに同期されているんだ!」というクレームが相次いだ。ユーザーは、デフォルトで同期が有効になっていることを完全に把握しておらず、管理者からの説明も十分ではなかったのだ。これはまさに、管理者側の事前説明とユーザー教育の不足が招いたミスだった。
  • また、会議名にプライベートな内容が含まれているカレンダーイベントまで同期され、それをSalesforce上で他のユーザーが見られることに、強い抵抗を示す社員もいた。

同期される活動の精度とノイズ

「活動データが増える」ことは喜ばしいことだったが、その品質については想定が甘かった。

  • 営業活動に直接関係のない社内会議の招待、システムからの自動通知メール、あるいは全く関係のない迷惑メールまでがSalesforceに同期されてしまった。
  • これにより、本来見たい営業活動のログが、大量のノイズの中に埋もれてしまう結果となった。レポートやリストビューで絞り込もうにも、EACで同期される活動は「メールメッセージ」「イベント」といった特定のオブジェクトに集約されるため、従来の活動(タスク/行動)のような柔軟なフィルターが効きにくい。
  • 当時の私は、EACがまるでAIのように「重要な活動だけ」を抽出してくれると過信していた節がある。実際は、設定したルールに基づいて機械的に同期されるだけであり、そこにビジネスロジックを期待しすぎたのだ。

従来の活動 (タスク/行動) との混在

EACを導入する前は、営業担当者は手動で「行動」オブジェクトに商談活動や顧客とのやり取りを登録していた。EAC導入後、EACによって自動同期された活動と、手動で登録された活動が混在することになった。

  • これがレポート作成時に非常にやっかいだった。EACの活動は「活動レポート」では直接扱えず、「メールメッセージ」や「イベント」オブジェクトを基にしたレポートタイプを使う必要があった。
  • 営業マネージャーからは、「活動全体を俯瞰したいのに、EACの活動と手動の活動でレポートが分かれてしまって見にくい」という不満が噴出した。これに対応するため、手動でレポートを統合するなどの手間が発生し、当初期待した「業務効率化」とは逆の事態に陥った。

データ保持期間とアーカイブ

EACで同期される活動データは、SalesforceのストレージではなくAWS上に保存されるため、SalesforceのGovernor Limitsであるデータストレージを消費しないというメリットがある。しかし、この点が盲点だった。

  • EACの活動データには保持期間があり、一定期間が経過すると自動的にアーカイブされ、Salesforce上から参照できなくなる。この事実をユーザーに十分に説明していなかったため、「過去の活動が見えなくなった!」という問い合わせが頻発した。
  • 当時の私は、Salesforceにデータが「ある」ことに満足し、その「データがどう扱われるか」まで深く掘り下げて理解していなかった。⚠️ 公式ドキュメント確認が必要だが、Standard Einstein Activity Captureの保持期間は過去6ヶ月〜最長24ヶ月(Inbox/Sales Cloud Einsteinユーザーの場合)だったはずだ。この期間を過ぎると、SalesforceのActivity Timelineやレポートからは見えなくなる。

今なら別の選択をする

もし今、Einstein 活動キャプチャの導入を検討するとしたら、当時の私とは全く異なるアプローチを取るだろう。

  1. 徹底的な要件定義とユースケース洗い出し: まず、なぜEACが必要なのか、どんな活動を、誰が、どのように使いたいのかを深く掘り下げる。営業活動の中でも、特に同期が必要な活動は何か、それ以外のノイズは許容できるのか。
  2. プライバシーポリシーの明確化と合意形成: 法務部門や人事部門と連携し、どこまでの情報が同期され得るのか、ユーザーのプライバシーをどう守るのかについて、明確なガイドラインと社内規定を設ける。そして、全ユーザーにその内容を徹底的に周知し、理解と同意を得る。
  3. スモールスタートと段階的展開 (PoC): 全社展開する前に、特定のチームや部門で数ヶ月間、徹底的なPoCを行う。そこでのフィードバックを元に、設定や運用ルールを洗練させる。同期対象のメールアドレスやドメイン、イベントの種類を細かく設定し、本当に必要な情報だけが同期されるようにチューニングする。
  4. 代替手段との比較検討: EACだけに固執せず、Salesforce Inbox連携の活用、または手動入力のUIを改善するためのカスタムコンポーネント開発、フローによる活動登録支援など、他の選択肢と費用対効果を比較検討する。例えば、Inbox連携であれば、ユーザーが明示的にSalesforceに紐付けるアクションを取るため、プライバシー懸念が軽減される。
  5. 活動データの統合戦略: EAC活動と手動活動のデータをどのように統合して分析するか、導入前からレポート戦略を練る。Salesforce側のレポーティング機能だけでは限界がある場合、データウェアハウスへの連携やBIツールでの統合も視野に入れる。

当時の私は「Salesforceの標準機能だから安心」「これで課題解決だ」という思考停止に陥っていた。技術的な側面だけでなく、それがユーザーの行動、プライバシー、そして既存の業務プロセスにどう影響するかまで想像力が及んでいなかったのだ。これは当時の自分向けのメモだ。

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