執筆者:Salesforce 咨询顾问 (Salesforceコンサルタント)
背景と応用シナリオ
今日のデジタル中心の世界では、顧客は企業に対して一貫性があり、パーソナライズされた体験を期待しています。断片的なコミュニケーションや画一的なメッセージは、顧客のエンゲージメントを損なうだけでなく、ブランドへの信頼を失墜させる原因ともなり得ます。ここで極めて重要な役割を果たすのが、Salesforce Marketing Cloud Engagement の中核機能である Journey Builder (ジャーニービルダー) です。
Journey Builder は、顧客一人ひとりの行動や属性に応じて、事前に設計されたシナリオ(ジャーニー)に沿って、複数のチャネル(Eメール、SMS、プッシュ通知など)を横断したコミュニケーションを自動化するツールです。コンサルタントの視点から見ると、これは単なるマーケティングオートメーションツールではありません。顧客ライフサイクルのあらゆる段階で、最適なタイミングで最適なメッセージを届けることで、顧客体験(Customer Experience)を劇的に向上させ、最終的にビジネス目標(LTV向上、解約率低下、アップセル促進など)を達成するための戦略的プラットフォームです。
具体的な応用シナリオ
- ウェルカムジャーニー: 新規会員登録や初回購入を行った顧客に対し、ブランドの紹介、アプリの利用方法、次回購入時に使えるクーポンの提供などを段階的に行い、初期エンゲージメントを最大化します。
- リエンゲージメントジャーニー: 最終ログインから90日以上経過した休眠顧客を対象に、特別なインセンティブを提供したり、新機能の紹介を行ったりすることで、再度の利用を促します。
- かご落ち対策ジャーニー: ECサイトで商品をカートに追加したものの、購入に至らなかった顧客に対し、リマインダーメールや関連商品のレコメンデーションを送信し、購入完了を後押しします。
- Sales/Service Cloud 連携ジャーニー: Sales Cloud で商談が「成立」になったタイミングで、オンボーディングジャーニーを開始する。あるいは、Service Cloud で「ケース」がクローズされた後に、満足度調査のアンケートを送信し、フィードバックを収集する。
これらのシナリオはすべて、顧客データを起点として、ビジネスプロセスと連携しながら、インテリジェントなコミュニケーションを実現するという Journey Builder の本質を示しています。
原理説明
Journey Builder の仕組みを理解するためには、いくつかの主要な構成要素を把握する必要があります。コンサルタントとして顧客に説明する際は、これらの要素がどのように連携して一つのジャーニーを形成するのかを明確にすることが重要です。
1. Entry Source (エントリソース)
ジャーニーの「入り口」であり、どの顧客を、どのタイミングでジャーニーに参加させるかを定義します。主な Entry Source には以下のようなものがあります。
- Data Extension (データエクステンション): Marketing Cloud 内のテーブルのようなものです。特定の条件を満たす顧客リストを格納した Data Extension を Entry Source とし、スケジュール(一度きり、定期的)に基づいてジャーニーを開始させます。 - API Event (APIイベント): 外部システム(例:自社の基幹システム、モバイルアプリ、Webサイト)からのAPIコールをトリガーとして、リアルタイムに顧客をジャーニーに参加させます。ECサイトでの購入完了直後などが典型的なユースケースです。 - Salesforce Data: Sales Cloud や Service Cloud のオブジェクト(リード、取引先責任者、商談など)のレコードが作成・更新されたことをトリガーとします。これにより、CRM上のイベントとマーケティング活動をシームレスに連携できます。
2. Activities (アクティビティ)
ジャーニーの「経路」を構成する個々のステップです。顧客に対して何を行うかを定義します。
- Messages (メッセージ): Eメール送信、SMS送信、プッシュ通知など、顧客に直接コンタクトを取るためのアクティビティです。
- Flow Control (フロー制御):
- Wait (待機): 特定の期間(例:3日間)や特定の日時まで、顧客のジャーニー上の進行を一時停止させます。
- Decision Split (決定分岐): 顧客の属性データ(例:「会員ランクがゴールドか?」)に基づいて、後続のパスを分岐させます。
- Engagement Split (エンゲージメント分岐): 直前に送信したメッセージに対する顧客の反応(例:「メールを開封したか?」)に基づいてパスを分岐させます。
- Customer Updates (顧客データの更新): ジャーニーの途中で、Marketing Cloud 内の連絡先データや Data Extension の情報を更新します。
- Sales & Service Cloud: Marketing Cloud Connector を介して、Sales/Service Cloud のレコード(例:ケース、ToDo)を作成・更新します。マーケティング活動の結果を営業やサポートチームに直接引き継ぐための強力な機能です。
3. Goal (ゴール)
そのジャーニーの「成功の定義」です。例えば、「商品の購入」や「Webセミナーへの申し込み」などをゴールとして設定します。顧客がゴール条件を満たすと、その時点でジャーニーから離脱させることができます(オプション)。これにより、ジャーニーのコンバージョン率を正確に測定し、ROIを可視化することが可能になります。
4. Journey Settings (ジャーニー設定)
ジャーニー全体の動作を制御します。特に重要なのが Contact Entry (連絡先エントリ) の設定です。
- No re-entry (再入不可): 一人の顧客は、そのジャーニーに一度しか参加できません。
- Re-entry anytime (いつでも再入可): 顧客は、ジャーニーが有効である限り、Entry Source の条件を満たすたびに何度でも参加できます。
- Re-entry only after exiting (離脱後に再入可): 顧客が一度ジャーニーを完了(またはゴール達成で離脱)した場合に限り、再度参加が許可されます。
これらの設定をビジネス要件に応じて適切に選択することが、意図した通りの顧客体験を提供する上で不可欠です。
示例代码 (APIイベントによるジャーニー開始)
Journey Builder の設定は主にGUIで行いますが、外部システムとのリアルタイム連携を実現する「API Event」は、開発要素を含む重要な機能です。ここでは、外部のWebサーバーからAPIをコールして、特定の顧客をジャーニーに投入する際のコード例を Salesforce 公式ドキュメントに基づいて示します。
この例では、`POST` リクエストを Journey Builder API の `/interaction/v1/events` エンドポイントに送信します。
POST /interaction/v1/events HTTP/1.1 Host: YOUR_SUBDOMAIN.rest.marketingcloudapis.com Content-Type: application/json Authorization: Bearer YOUR_ACCESS_TOKEN { "ContactKey": "user@example.com", "EventDefinitionKey": "APIEvent-XXXXXXXX-XXXX-XXXX-XXXX-XXXXXXXXXXXX", "Data": { "EmailAddress": "user@example.com", "FirstName": "Taro", "LastName": "Salesforce", "OrderNumber": "100012345", "PurchaseDate": "2023-10-27T10:00:00Z" } }
コードの解説
- `POST /interaction/v1/events`: Journey Builder のイベントを受け付けるためのAPIエンドポイントです。
- `Host`: ご自身のMarketing Cloudテナントに固有のサブドメインを指定します。
- `Authorization: Bearer YOUR_ACCESS_TOKEN`: Marketing Cloud の Installed Package で取得したアクセストークンを `Bearer` トークンとして指定します。APIを利用するためには事前の認証が必要です。
- `ContactKey`: ジャーニーに投入する連絡先を一意に識別するためのキーです。通常はメールアドレスや顧客IDが使用されます。これは Marketing Cloud の All Contacts における Subscriber Key に相当します。
- `EventDefinitionKey`: Journey Builder で API Event を作成した際に自動的に生成される一意のキーです。どのジャーニーのどのイベントをトリガーするかを識別します。 - `Data`: ジャーニー内で利用するデータを格納するJSONオブジェクトです。ここで渡した `FirstName` や `OrderNumber` などの値は、ジャーニー内のメールコンテンツのパーソナライズや、決定分岐の条件として利用できます。この `Data` オブジェクトのキーと値のペアは、API Event を設定する際に作成した Data Extension のカラムと対応している必要があります。
注意事項
Journey Builder は非常に強力なツールですが、その効果を最大限に引き出すためには、いくつかの注意点を理解しておく必要があります。コンサルタントとして、これらのリスクや制約を事前に顧客に説明し、適切な設計を導くことが求められます。
1. データ設計の重要性
ジャーニーの品質は、その基盤となるデータの品質に直結します。Entry Source となる Data Extension は、正規化され、クリーンな状態に保たれている必要があります。また、ジャーニー内のパーソナライズや分岐で利用するデータは、Attribute Group (属性グループ) 内の Data Designer (データデザイナー) を用いて、Contact Key を中心に関連付けておくことがベストプラクティスです。場当たり的なデータ連携は、パフォーマンスの低下や意図しない動作の原因となります。
2. ガバナンスとAPI制限
特に API Event を多用する場合、Marketing Cloud の API コール数制限に注意が必要です。高トラフィックなサイトで大量のイベントを発生させる可能性がある場合は、APIの利用状況を監視し、必要に応じて制限緩和の申請やアーキテクチャの見直しを検討する必要があります。また、一つのジャーニーに数百のステップを組み込むなど、過度に複雑なジャーニーは処理の遅延やトラブルの原因となるため、目的ごとにジャーニーを分割することを推奨します。
3. Salesforce CRM との連携における権限
Sales/Service Cloud のアクティビティを利用するには、Marketing Cloud Connect API User の権限設定が正しく行われている必要があります。このユーザーには、ジャーニー内で操作対象となるオブジェクト(例:ケース、リード)への参照・作成・更新権限が必要です。権限が不足していると、ジャーニーはエラーとなり、該当のステップで停止してしまいます。
4. テスト戦略
有効化(Activate)する前に、必ず徹底的なテストを行ってください。少数のテスト用連絡先を含んだテスト Data Extension を用意し、ジャーニーのすべての分岐パスを通過するようにテストケースを設計します。Path Optimizer (パスオプティマイザー) 機能を使えば、複数のパス(例:異なる件名のメール)をA/Bテストし、最も効果の高いクリエイティブやロジックを特定することも可能です。
まとめとベストプラクティス
Journey Builder は、顧客との関係を深め、ビジネス成果を向上させるための変革的なツールです。しかし、その真価を発揮させるためには、テクノロジーの理解だけでなく、顧客視点に立った戦略的な設計が不可欠です。
コンサルタントとして、私たちは以下のベストプラクティスを推奨します。
- 明確な目標から始める: ジャーニーを設計する前に、「このジャーニーで何を達成したいのか?」というゴール(コンバージョン)を明確に定義します。
- ジャーニーを視覚的にマッピングする: ツール上でいきなり作り始めるのではなく、まずホワイトボードや図表作成ツールで顧客の体験フローを可視化し、関係者と合意形成を図ります。
- 自動化だけでなく、パーソナライズを: 顧客の属性や行動履歴に基づいた動的なコンテンツ(Dynamic Content)やパーソナライゼーション文字列(Personalization Strings)を積極的に活用し、「自分ごと」として感じられるメッセージを届けます。
- 反復と最適化: ジャーニーは一度作って終わりではありません。ダッシュボードの分析情報を元に、エンゲージメントの低い箇所を特定し、Path Optimizer などを用いて継続的に改善サイクルを回します。
- データ品質を維持する: CRMやその他のデータソースとの連携を密にし、常に最新で正確なデータが Journey Builder で利用できるように、データガバナンスの体制を整えます。
これらのプラクティスを遵守することで、Salesforce Journey Builder を単なるツールとしてではなく、顧客との長期的な信頼関係を築くための強力なエンジンとして活用することができるでしょう。
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