Salesforce GraphQL API活用術:開発者のための効率的なデータ取得ガイド

こんにちは!Salesforce 開発者です。今日のテーマは、Salesforceプラットフォームにおけるデータアクセスの世界を大きく変える可能性を秘めた GraphQL API です。従来の REST API と比較しながら、このモダンなAPIがどのように開発者の生産性を向上させ、アプリケーションのパフォーマンスを最適化するのかを、具体的なコード例を交えて徹底的に解説していきます。


背景と適用シナリオ

Salesforce 開発者として、私たちはこれまで主に REST API、特に SOQL (Salesforce Object Query Language) クエリーを実行するための /services/data/vXX.X/query エンドポイントを使用してきました。この方法は非常に強力ですが、特に複雑なフロントエンドアプリケーションを構築する際に、いくつかの課題に直面することがあります。

例えば、「ある取引先(Account)とその全ての関連取引先責任者(Contact)の名前とメールアドレス、さらに進行中の商談(Opportunity)の金額とフェーズ」を取得したいとします。従来の REST API では、以下のようなアプローチが考えられます。

  • 複数のAPIコール:最初に取引先を取得し、次にそのIDを使って取引先責任者をクエリし、さらに別のクエリで商談を取得します。これにより、クライアントとサーバー間のネットワーク往復が増え、レイテンシが悪化します。これを「アンダーフェッチング(under-fetching)」と呼びます。
  • 複雑なSOQLリレーションシップクエリ:SOQLの親子リレーションシップクエリ(例: SELECT Name, (SELECT Name, Email FROM Contacts), (SELECT Amount, StageName FROM Opportunities) FROM Account WHERE Id = '...')を使えば1回のリクエストで済みます。しかし、レスポンスには常に固定の構造のデータが含まれます。もしクライアントが取引先責任者の電話番号は不要で、商談の完了予定日だけが必要な場合でも、APIのレスポンスには不要なデータが含まれてしまいます。これを「オーバーフェッチング(over-fetching)」と呼びます。

これらの課題は、特に Lightning Web Components (LWC) や、外部でホストされるシングルページアプリケーション(SPA)、モバイルアプリケーションなど、パフォーマンスと効率性が重視されるモダンなアプリケーション開発において顕著になります。

ここで登場するのが GraphQL (グラフキューエル) API です。GraphQL は、クライアントが必要なデータの構造をクエリで正確に指定できるAPIのためのクエリ言語です。これにより、単一のエンドポイントへの1回のリクエストで、過不足なく、まさに必要なデータだけを取得できるようになります。これにより、ネットワーク帯域の節約、アプリケーションの応答性向上、そして開発者体験の大幅な向上が期待できます。

原理の説明

GraphQL API がどのように機能するのか、その中核となる概念を理解しましょう。

単一のエンドポイント

REST API がリソースごとに異なるエンドポイント(例: /Account/{id}, /Contact/{id})を持つのとは対照的に、GraphQL API は通常、単一のエンドポイント(Salesforce の場合は /services/data/vXX.X/graphql)にPOSTリクエストを送信します。リクエストのボディに、取得したいデータを記述した「クエリ」を含めます。

スキーマと型システム

GraphQL API は厳格な型システムに基づいています。サーバー側では、「スキーマ(Schema)」が定義されており、どのようなデータが取得可能か、オブジェクト間のリレーションシップがどうなっているかが記述されています。開発者はこのスキーマを参照(またはイントロスペクションクエリで取得)することで、APIで何ができるかを正確に把握できます。これにより、APIのドキュメントを探し回る手間が省け、エディタの補完機能なども活用しやすくなります。

クライアント主導のクエリ

最大の特徴は、クライアントがデータの形状を決定する点です。クライアントはJSONライクな構文でクエリを作成し、「このオブジェクトの、この項目と、関連するあのオブジェクトの、この項目が欲しい」と具体的に指定します。サーバーは、そのクエリを解析し、指定された通りの構造でJSONデータを返します。

Read-Only 操作

非常に重要な点として、現在の Salesforce GraphQL API はデータ取得(Read)専用です。データの作成(Create)、更新(Update)、削除(Delete)といった操作(GraphQL の世界では "Mutation" と呼ばれます)はサポートされていません。これらの操作には、引き続き標準の REST API や SOAP API を使用する必要があります。


示例代码

それでは、具体的なクエリの例を見てみましょう。ここでは、特定の取引先(Account)に関連する取引先責任者(Contact)と商談(Opportunity)の情報を一度に取得するクエリを示します。このコードは Salesforce Developer Guide の公式ドキュメントに基づいています。

GraphQL クエリの例

以下は、"Sample Account for Integration" という名前の取引先について、その `Id` と `Name`、そして関連する取引先責任者の `Name` と `Email`、さらに進行中(`IsClosed = false`)の商談の `Amount` と `StageName` を取得するためのクエリです。

query accountContactsAndOpps {
  uiapi {
    query {
      Account(where: { Name: { eq: "Sample Account for Integration" } }, first: 1) {
        edges {
          node {
            Id
            Name {
              value
            }
            Contacts(first: 5) {
              edges {
                node {
                  Id
                  Name {
                    value
                  }
                  Email {
                    value
                  }
                }
              }
            }
            Opportunities(where: { IsClosed: { eq: false } }, first: 10) {
              edges {
                node {
                  Id
                  Amount {
                    value
                  }
                  StageName {
                    value
                  }
                }
              }
            }
          }
        }
      }
    }
  }
}

コードの解説

  • query accountContactsAndOpps: このクエリに `accountContactsAndOpps` という名前を付けています。デバッグ時に役立ちます。
  • uiapi: Salesforce GraphQL API のすべてのクエリは、この `uiapi` ルートオブジェクトから始まります。
  • Account(...): `Account` オブジェクトをクエリ対象として指定しています。
  • where: { Name: { eq: "..." } }: SOQL の WHERE 句に相当し、レコードをフィルタリングします。ここでは `Name` が特定の値と等しいものを探しています。
  • first: 1: 取得するレコードの最大数を指定します。LIMIT 句に似ています。
  • edges { node { ... } }: GraphQL のカーソルベースのページネーションの標準的な構文です。`node` の中に、実際に取得したい項目を記述します。
  • Name { value }: `Name` のような複合項目は、その中の `value` を指定して実際の値を取得します。
  • Contacts(first: 5): `Account` に関連する `Contacts` を取得します。`first: 5` で最大5件の取引先責任者を取得するよう指定しています。
  • Opportunities(where: { ... }): `Account` に関連する `Opportunities` を取得します。ここではさらに `IsClosed` が `false` のものだけに絞り込んでいます。

期待される JSON レスポンス

上記のクエリを実行すると、サーバーは以下のような構造のJSONを返します。クエリの形とレスポンスの形が完全に対応していることがわかります。

{
  "data": {
    "uiapi": {
      "query": {
        "Account": {
          "edges": [
            {
              "node": {
                "Id": "001xx000003DHPgAAO",
                "Name": {
                  "value": "Sample Account for Integration"
                },
                "Contacts": {
                  "edges": [
                    {
                      "node": {
                        "Id": "003xx000004WfP0AAK",
                        "Name": {
                          "value": "Sean Forbes"
                        },
                        "Email": {
                          "value": "sforbes@example.com"
                        }
                      }
                    },
                    {
                      "node": {
                        "Id": "003xx000004WfP1AAK",
                        "Name": {
                          "value": "Rose Gonzalez"
                        },
                        "Email": {
                          "value": "rgonzalez@example.com"
                        }
                      }
                    }
                  ]
                },
                "Opportunities": {
                  "edges": [
                    {
                      "node": {
                        "Id": "006xx000001W1bHAAS",
                        "Amount": {
                          "value": 150000
                        },
                        "StageName": {
                          "value": "Prospecting"
                        }
                      }
                    }
                  ]
                }
              }
            }
          ]
        }
      }
    }
  }
}

このように、1回のリクエストで、複数の関連オブジェクトから必要な項目だけを、階層構造を保ったまま効率的に取得できました。


注意事項

GraphQL API を実務で利用するにあたり、開発者が留意すべき点がいくつかあります。

権限 (Permissions)

GraphQL API は、実行ユーザーの権限を完全に尊重します。オブジェクトレベルのセキュリティ(CRUD権限)と項目レベルのセキュリティ(FLS)が適用されます。ユーザーがアクセス権を持たないオブジェクトや項目をクエリに含めた場合、その部分は `null` として返されるか、エラーが発生します。これは、Salesforce の堅牢なセキュリティモデルが GraphQL を通じても維持されることを意味しており、開発者は安心して利用できます。

API 制限 (API Limits)

GraphQL API のコールは、組織の合計APIリクエスト制限(24時間あたりのローリングリミット)にカウントされます。これに加えて、GraphQL 固有の制限も存在します。

  • クエリの複雑さ: 非常に深く、または広範なクエリは、サーバーのリソースを過度に消費する可能性があるため、クエリの複雑さには上限が設けられています。
  • クエリの深さ: クエリ内のネストの深さ(リレーションシップをたどる階層)にも制限があります。
  • オブジェクト数: 1つのGraphQLクエリで参照できるSObjectの型は10種類までです。

これらの制限を超えるクエリを実行しようとすると、APIはエラーを返します。開発時には、クエリを効率的に設計し、これらの制限に抵触しないよう注意が必要です。

エラー処理 (Error Handling)

GraphQL のエラー処理は REST API とは少し異なります。REST API では、クライアント側のリクエストに問題がある場合、通常 `400 Bad Request` のような `4xx` ステータスコードが返されます。一方、GraphQL では、クエリの一部が成功し、一部が失敗した場合でも、HTTPステータスコードは `200 OK` を返すことがあります。その代わり、レスポンスJSONのトップレベルに `errors` という配列が含まれます。開発者は、レスポンスを処理する際に、`data` プロパティだけでなく、必ず `errors` プロパティの有無もチェックし、適切にエラーハンドリングを行う必要があります。


まとめとベストプラクティス

Salesforce GraphQL API は、特に複雑なデータ要件を持つ最新のウェブアプリケーションやモバイルアプリケーションを開発する際の強力なツールです。その主な利点を再確認しましょう。

  • 効率性: 複数の関連オブジェクトのデータを1回のリクエストで取得でき、オーバーフェッチングとアンダーフェッチングを解消します。
  • パフォーマンス: 必要なデータのみを転送するため、ネットワークペイロードが削減され、アプリケーションの応答性が向上します。
  • 開発者体験: 厳格な型システムと自己文書化的な性質により、APIの利用が容易になり、開発の生産性が向上します。

最後に、GraphQL API を最大限に活用するためのベストプラクティスをいくつか紹介します。

  1. 適切なユースケースを選択する: 複数の関連オブジェクトからネストされたデータを取得するような、複雑な読み取り操作に最適です。単一オブジェクトから数項目を取得するような単純なクエリであれば、従来の REST API の方がシンプルで十分な場合もあります。
  2. クライアントライブラリを活用する: Apollo Client や Relay のような GraphQL クライアントライブラリを使用すると、キャッシュ、状態管理、エラーハンドリングなどの複雑な処理を簡素化できます。
  3. クエリの複雑さを管理する: アプリケーションのパフォーマンスを維持し、API制限に達しないように、必要以上に深いネストや広範なクエリは避けるように設計します。
  4. エラーを常にチェックする: レスポンスを処理する際は、`data` だけでなく `errors` 配列も必ず確認するロジックを実装してください。

GraphQL API は、Salesforce 開発者がより高速で、より効率的で、より優れたユーザー体験を持つアプリケーションを構築するための新たな選択肢を提供します。ぜひ、GraphiQLのようなツールを使って、あなたの開発組織のスキーマを探索し、その可能性を試してみてください。

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