Salesforce コンパクトレイアウト完全ガイド:モバイルと Lightning Experience の生産性を最大化する

背景と応用シナリオ

Salesforce 管理者の皆さん、こんにちは!日々の業務の中で、「ユーザーがレコードの概要をもっと素早く把握できれば、生産性が上がるのに…」と感じたことはありませんか?レコードページには多くの情報が表示されていますが、ユーザーが本当に必要としているのは、そのレコードが「何であるか」を瞬時に識別するためのキー情報です。ここで強力なツールとなるのが Compact Layouts (コンパクトレイアウト) です。

Compact Layouts は、ユーザーが必要な情報を一目で確認できるように、オブジェクトレコードの主要な項目を要約して表示するための設定です。これにより、ユーザーは詳細ページ全体をスクロールすることなく、重要なデータに素早くアクセスできます。特に、以下のような場面でその真価を発揮します。

1. Lightning Experience の強調パネル

Lightning Experience (Lightning Experience) のレコードページ上部に表示される Highlights Panel (強調パネル) には、Compact Layout で指定した項目が表示されます。例えば、取引先責任者レコードを開いたとき、名前、役職、電話番号、メールアドレスがすぐに目に入れば、ユーザーは次のアクションを迅速に決定できます。

2. Salesforce モバイルアプリ

Salesforce Mobile App (Salesforce モバイルアプリ) を利用する営業担当者にとって、Compact Layouts は不可欠です。外出先でスマートフォンから顧客情報にアクセスする際、小さな画面で効率的に情報を確認する必要があります。Compact Layout は、レコードのヘッダー部分に最も重要な情報を集約して表示するため、モバイル環境でのユーザーエクスペリエンスを劇的に向上させます。

3. Outlook/Gmail 連携およびレコードのポップアップ表示

Salesforce と Outlook や Gmail を連携させている場合、メール内の連絡先から Salesforce レコードをポップアップ表示できます。このポップアップに表示される情報も Compact Layout によって制御されており、コンテキストを切り替えることなく、関連情報を素早く確認できます。また、関連リストやルックアップ項目にマウスオーバーした際に表示される情報カードも同様です。


原理説明

Compact Layouts は、各オブジェクトに対して設定する、項目の順序付きリストです。その仕組みは非常にシンプルですが、ユーザーインターフェース全体に大きな影響を与えます。

オブジェクトとの関連

Compact Layout は、標準オブジェクトおよびカスタムオブジェクトごとに作成・管理されます。各オブジェクトには、システムデフォルトの Compact Layout が用意されていますが、ビジネス要件に合わせてカスタムの Compact Layout を作成し、それを「プライマリ Compact Layout」として割り当てることが推奨されます。

表示される項目

一つの Compact Layout には、最大10個の項目を含めることができます。リストの先頭にある項目が最も目立つ場所に表示される傾向があります(例:強調パネルのレコード名のすぐ下)。項目を選択する際には、以下の点に注意が必要です。

  • テキストエリア、ロングテキストエリア、リッチテキストエリア、複数選択リストはサポートされていません。これらの項目は要約表示には不向きなためです。
  • ユーザーがその項目に対する Field-Level Security (FLS) (項目レベルセキュリティ) のアクセス権を持っていない場合、その項目はレイアウトに含まれていても表示されません。

レコードタイプとの連携

Compact Layouts の強力な機能の一つが、Record Types (レコードタイプ) との連携です。異なるビジネスプロセスやユーザーグループに対して、異なるキー情報を表示させたい場合があります。例えば、「取引先」オブジェクトに「顧客」と「パートナー」という2つのレコードタイプがある場合、それぞれに異なる Compact Layout を割り当てることができます。

  • 顧客レコードタイプ:年間売上、顧客ランク、担当営業などの項目を優先的に表示
  • パートナーレコードタイプ:パートナーレベル、契約終了日、担当チャネルマネージャーなどの項目を優先的に表示

このように設定することで、ユーザーは自分の業務に関連性の高い情報をすぐに見つけることができ、業務効率が向上します。レコードタイプごとに Compact Layout を割り当てない場合、オブジェクトのプライマリ Compact Layout が使用されます。


サンプルコード

Compact Layouts は通常、Salesforce の設定画面から宣言的に作成・編集しますが、Metadata API (メタデータ API) を使用して、設定をコードとして管理・デプロイすることも可能です。これにより、Sandbox から本番環境への移行を自動化したり、バージョン管理システムで設定変更を追跡したりできます。

以下は、取引先オブジェクト(Account)のカスタム Compact Layout を定義する CompactLayout メタデータ型の XML ファイルの例です。この例は Salesforce の公式ドキュメントに基づいています。

<?xml version="1.0" encoding="UTF-8"?>
<CompactLayout xmlns="http://soap.sforce.com/2006/04/metadata">
    <fullName>Custom_Account_Compact_Layout</fullName> <!-- コンパクトレイアウトのAPI参照名 -->
    <fields>Name</fields> <!-- 最初に表示される項目 (通常はName項目) -->
    <fields>Type</fields> <!-- 2番目に表示される項目: 取引先種別 -->
    <fields>Industry</fields> <!-- 3番目に表示される項目: 業種 -->
    <fields>Phone</fields> <!-- 4番目に表示される項目: 電話 -->
    <fields>Website</fields> <!-- 5番目に表示される項目: Webサイト -->
    <fields>OwnerId</fields> <!-- 6番目に表示される項目: 取引先所有者 -->
    <label>Custom Account Compact Layout</label> <!-- Salesforce UIに表示される表示ラベル -->
</CompactLayout>

コードの解説:

  • <fullName>: この Compact Layout の一意の API 参照名です。組織内で一意である必要があります。
  • <fields>: レイアウトに表示する項目の API 参照名を指定します。この XML ファイルでの順序が、UI 上での表示順序を決定します。この例では、Name, Type, Industry, Phone, Website, OwnerId の順で表示されます。
  • <label>: Salesforce の設定画面で表示される、人間が判読可能なラベルです。管理者がレイアウトを識別するために使用します。

このようなメタデータファイルは、Salesforce DX プロジェクトや Ant 移行ツールを使用して、環境間で簡単にデプロイできます。これにより、手作業による設定ミスを防ぎ、一貫性のある環境管理が実現します。


注意事項

Compact Layouts を効果的に活用するためには、いくつかの注意点を理解しておく必要があります。

権限

Compact Layouts を作成、編集、削除するには、「アプリケーションのカスタマイズ」権限が必要です。通常、システム管理者プロファイルにはこの権限が付与されています。

制限と考慮事項

  • 項目数:1つの Compact Layout に含めることができる項目は最大10個です。しかし、UI/UX の観点からは、本当に重要な5〜7個の項目に絞ることが推奨されます。情報が多すぎると、「一目でわかる」という利点が損なわれます。
  • 項目レベルセキュリティ (FLS):前述の通り、ユーザーが表示権限を持たない項目は Compact Layout に含まれていても表示されません。レイアウトを設計する際は、対象となるユーザープロファイルの FLS 設定を必ず確認してください。
  • 数式項目:Compact Layout には数式項目を含めることができますが、複雑な数式はページの表示パフォーマンスに影響を与える可能性があります。特に多くのレコードが表示されるリストビューや関連リストでの利用には注意が必要です。
  • 更新の反映:Compact Layout を変更または割り当てた後、変更がすべてのユーザーに反映されるまでに数分かかる場合があります。キャッシュのクリアが必要になることもあります。

エラー処理

Compact Layout は主に表示を制御する機能であり、データの入力規則や必須項目の強制は行いません。そのため、Compact Layout 自体が直接的なエラーを引き起こすことは稀です。ただし、ユーザーが表示すべき情報を見つけられない場合、それは設計上の問題であり、ユーザビリティの低下につながります。例えば、サポート担当者向けのケースのレイアウトに「状況」や「優先度」が含まれていないと、業務に支障をきたす可能性があります。


まとめとベストプラクティス

Compact Layouts は、Salesforce のユーザーエクスペリエンスを向上させるための、シンプルでありながら非常に強力なツールです。適切に設計・実装することで、ユーザーは必要な情報に素早くアクセスでき、日々の業務効率とデータ活用の質が向上します。最終的には、これが Salesforce の組織への定着率向上にも繋がります。

以下に、Compact Layout を設計・管理する上でのベストプラクティスをまとめます。

  1. ユーザー中心で設計する: どの情報がユーザーにとって最も価値があるかを考えます。営業、サービス、マーケティングなど、役割によって必要な情報は異なります。関連部署のユーザーにヒアリングを行い、フィードバックを基に項目を選定しましょう。
  2. 最も重要な情報を先頭に: レイアウトの先頭にある項目が最も目立ちます。レコードを識別するために不可欠な項目(例:取引先の業種、商談のフェーズ、ケースの状況)を最初に配置してください。
  3. 簡潔さを保つ: 最大10項目まで追加できますが、常に上限まで使う必要はありません。表示する項目が少ないほど、ユーザーは情報を素早く消化できます。「Less is more」の原則を忘れないでください。
  4. モバイルとデスクトップの両方でテストする: Compact Layout は様々な場所で利用されます。設定後は、必ず Lightning Experience のデスクトップ表示と Salesforce モバイルアプリの両方で、どのように表示されるかを確認しましょう。
  5. レコードタイプを積極的に活用する: オブジェクトの用途がレコードタイプによって異なる場合は、それぞれのレコードタイプに最適化された Compact Layout を割り当てることで、ユーザー体験をさらに向上させることができます。
  6. 定期的に見直す: ビジネスプロセスは変化します。半期に一度など、定期的に Compact Layout が現在の業務要件に合っているかを見直し、必要に応じて更新することが重要です。

Salesforce 管理者として、これらのベストプラクティスを実践し、Compact Layouts を最大限に活用して、組織全体の生産性向上に貢献していきましょう。

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