Salesforce Service Console による顧客サービス最適化:コンサルタントが徹底解説

概要とビジネスシーン

Salesforce Service Console は、顧客サービス担当者(エージェント)の生産性を最大化し、一貫した高品質な顧客サービスを提供するための統合ワークスペースです。複数の顧客チャネルからの問い合わせを一元的に管理し、必要な情報やツールに迅速にアクセスできることで、顧客満足度の向上と運用コストの削減に貢献します。

実際のビジネスシーン

シーンA:通信業界 - 顧客問い合わせ集中
ある大手通信会社では、ピーク時に電話やチャット、メールで大量の顧客問い合わせが集中し、エージェントは複数のシステムを切り替えながら情報検索や対応を行っていました。これにより、顧客の待ち時間が長くなり、初回解決率(FCR: First Contact Resolution)が低下していました。
ソリューション:Service Console を導入し、電話統合(CTI: Computer Telephony Integration)、Omni-Channel(オムニチャネル)ルーティング、Knowledge(ナレッジ)記事、および Quick Text(クイックテキスト)を設定しました。これにより、エージェントは単一の画面で顧客情報、過去の問い合わせ履歴、関連するFAQ記事にアクセスできるようになりました。
定量的効果:平均処理時間(AHT: Average Handle Time)が15%短縮され、初回解決率が20%向上、顧客満足度(CSAT: Customer Satisfaction)も10ポイント上昇しました。

シーンB:金融業界 - 複雑な顧客履歴管理
とある証券会社では、顧客のポートフォリオ、取引履歴、過去の相談内容が複数のレガシーシステムに散在しており、エージェントが顧客からの問い合わせに対して迅速かつ正確な情報を提供することが困難でした。特に、複雑な金融商品の問い合わせ対応に時間を要していました。
ソリューション:Service Console のマルチタブ機能と、Salesforce Connect を用いた外部システム連携、またはカスタムコンポーネントによる情報集約を実装しました。これにより、エージェントは顧客に関連するすべての情報をコンソール内で一元的に閲覧・管理し、関連する金融商品のナレッジ記事を即座に参照できるようになりました。
定量的効果:顧客の問い合わせ解決にかかる時間が平均で30%短縮され、エージェントの専門知識習得期間も短縮され、エラー率が5%減少しました。

シーンC:製造業 - 製品サポートとサービス連携
精密機器メーカーでは、顧客からの製品故障に関する問い合わせや修理依頼に対し、コールセンターとフィールドサービス(現場作業員)間の情報共有が不十分で、サービスプロセスの連携がスムーズではありませんでした。
ソリューション:Service Console を Salesforce Field Service と連携させ、コールセンターのエージェントがケースから直接サービス予約を行ったり、フィールドサービス担当者のスケジュールを参照したりできるようにしました。また、顧客が所有する製品の資産(Asset)情報をコンソール上で管理し、製品固有のトラブルシューティングガイドをナレッジとして提供しました。
定量的効果:顧客からの修理依頼から完了までのリードタイムが25%短縮され、フィールドサービス担当者の効率が向上し、再訪問率が10%低減しました。

技術原理とアーキテクチャ

Service Console は Salesforce の Lightning Experience(ライトニングエクスペリエンス)上に構築されており、エージェントが複数のレコードやリソースを同時に操作できるタブベースのインターフェースを提供します。その基礎となるのは、Lightning Record Pages(Lightning レコードページ、旧FlexiPages)であり、エージェントの役割や対応するチャネルに応じて、必要なコンポーネントや情報配置を柔軟にカスタマイズできます。

主要コンポーネントとしては、顧客の問い合わせを適切なエージェントに振り分ける Omni-Channel(オムニチャネル)、エージェントが定型的な応答やアクションを素早く実行できる Macros(マクロ)Quick Text(クイックテキスト)、顧客自身が問題を解決できるための Knowledge(ナレッジ) ベース、そしてチャットやメッセージングを統合する Snap-ins Chat/Messaging(スナップインチャット/メッセージング) などがあります。これらはすべて Lightning コンポーネントとして提供され、App Builder(アプリケーションビルダー)を通じて Service Console アプリケーションに組み込むことができます。

データフロー概要(電話問い合わせから解決まで)

ステップ 説明 Salesforce コンポーネント
1. 顧客からの問い合わせ 顧客が電話でサポートに連絡 CTI(Computer Telephony Integration)
2. ケース作成とルーティング 電話と同期してCase(ケース)が作成され、適切なエージェントに割り当てられる Service Cloud Voice / CTI、Omni-Channel
3. エージェントによる対応 Service Console でエージェントがケースを開き、顧客情報や関連情報を参照 Service Console、Lightning Record Page、Utility Bar
4. 情報検索と解決策提示 エージェントが Knowledge 記事を検索し、顧客に解決策を提示 Knowledge、関連リスト、カスタムコンポーネント
5. ケースクローズ 問題解決後、ケースをクローズし、履歴を記録 Case オブジェクト

ソリューション比較と選定

Service Console は顧客サービス業務に特化した統合ワークスペースであり、他の Salesforce アプリケーションやカスタム開発と比較して、特定のユースケースで優れた価値を発揮します。

ソリューション 適用シーン パフォーマンス Governor Limits 複雑度
Service Console 複数のチャネルからの顧客問い合わせ対応、エージェントの生産性向上、複雑なケース管理 最適化されたUIで迅速な情報アクセスが可能 UI自体には直接適用されず、内部のApex/APIコールに適用 設定は比較的容易だが、高度なカスタマイズには開発知識が必要
Salesforce Standard UI (Lightning Experience) 主に営業担当者向けのレコード管理、サービスに特化しない一般的な業務 汎用的な設計で安定したパフォーマンス 内部のApex/APIコールに適用 シンプルで学習曲線が低い
Custom Lightning App 完全に独自のUI/UXが必要な場合、Service Console の機能では要件を満たせない場合 開発次第で最適化可能だが、不適切な実装は低下を招く 内部のApex/APIコールに適用、大量データ処理で回避策が必要な場合あり 開発コストとメンテナンスコストが非常に高く、専門的な開発スキルが必須

Service Console を使用すべき場合

  • ✅ 顧客サービスエージェントが複数のチャネル(電話、チャット、メール、Web)からの問い合わせに対応し、それらを効率的に管理する必要がある場合。
  • ✅ エージェントが多数の関連情報(ケース履歴、顧客情報、ナレッジ記事、資産情報など)を単一画面で素早く参照し、対応する必要がある場合。
  • ✅ マクロ、クイックテキスト、Omni-Channel ルーティング、サービス契約、スナップインチャットなどの Service Cloud の主要機能を活用し、エージェントの生産性を最大化したい場合。
  • ❌ 単純なレコード参照やデータ入力のみで、エージェント間の高度なコラボレーションや複雑なワークフローが不要な場合、またはサービス関連の機能がごく限定的である場合(この場合は Standard UI や Sales Cloud の利用も検討可)。

実装例

ここでは、Service Console の Utility Bar(ユーティリティバー)にカスタム Lightning Web Component(LWC)を追加し、Service Console API(Workspace API)を使用して新しいタブでケースを開くシンプルな実装例を示します。これにより、エージェントは共通の機能に素早くアクセスし、顧客との対話中に動的に新しいレコードタブを開くことができます。

1. LWC JavaScript ファイル (`openCaseTab.js`)

import { LightningElement } from 'lwc';
import { ShowToastEvent } from 'lightning/platformShowToast'; // トーストメッセージ表示用
import { IsConsoleNavigation, WorkspaceAPI } from 'lightning/platformWorkspaceApi'; // コンソールAPI

export default class OpenCaseTab extends LightningElement {
    isConsoleNavigation = IsConsoleNavigation; // コンソール環境かどうかを判定

    async handleOpenCase() {
        if (this.isConsoleNavigation) {
            try {
                // Workspace API を利用して新しいタブでケースを開く
                await WorkspaceAPI.openTab({
                    url: '/lightning/o/Case/new', // 新しいケース作成ページのURL
                    focus: true
                });
            } catch (error) {
                // エラー発生時はトーストメッセージを表示
                this.dispatchEvent(
                    new ShowToastEvent({
                        title: 'エラー',
                        message: '新しいケースタブを開けませんでした: ' + error.message,
                        variant: 'error',
                    })
                );
            }
        } else {
            // コンソール環境でない場合はトーストメッセージを表示
            this.dispatchEvent(
                new ShowToastEvent({
                    title: '情報',
                    message: 'この機能はService Consoleでのみ利用可能です。',
                    variant: 'info',
                })
            );
        }
    }
}

2. LWC HTML ファイル (`openCaseTab.html`)

<template>
    <lightning-card title="新規ケース作成" icon-name="standard:case">
        <p class="slds-p-around_small">迅速に新規ケースを作成できます。</p>
        <div class="slds-p-around_small">
            <lightning-button
                label="新規ケースを開く"
                onclick="{handleOpenCase}"
                variant="brand"
            ></lightning-button>
        </div>
    </lightning-card>
</template>

3. LWC メタデータ XML ファイル (`openCaseTab.js-meta.xml`)

<?xml version="1.0" encoding="UTF-8"?>
<LightningComponentBundle xmlns="http://soap.sforce.com/2006/04/metadata">
    <apiVersion>59.0</apiVersion>
    <isExposed>true</isExposed>
    <targets>
        <target>lightning__AppPage</target>
        <target>lightning__RecordPage</target>
        <target>lightning__HomePage</target>
        <target>lightning__UtilityBar</target> <!-- Utility Bar で利用可能にする -->
    </targets>
    <targetConfigs>
        <targetConfig targets="lightning__UtilityBar">
            <property name="height" type="Integer" default="300"/> <!-- ユーティリティバーでの高さ -->
        </targetConfig>
    </targetConfigs>
</LightningComponentBundle>

実装ロジックの解析:

  1. openCaseTab.js では、lightning/platformWorkspaceApi モジュールから IsConsoleNavigationWorkspaceAPI をインポートします。
  2. IsConsoleNavigation を使用して、コンポーネントが Service Console 環境で実行されているかを確認します。
  3. handleOpenCase メソッドがボタンクリックで呼び出されると、コンソール環境であれば WorkspaceAPI.openTab() メソッドを使用して新しいブラウザタブまたはコンソールタブでケース作成ページを開きます。
  4. openTab() メソッドの url プロパティには、標準のケース作成ページのパスを指定します。focus: true は新しいタブにフォーカスを当てることを意味します。
  5. openCaseTab.html では、lightning-cardlightning-button を使用してシンプルな UI を提供します。
  6. openCaseTab.js-meta.xml では、<isExposed>true</isExposed> を設定してコンポーネントが App Builder などで利用可能になるようにします。また、<target>lightning__UtilityBar</target> を追加することで、このコンポーネントを Service Console の Utility Bar に配置できるようになります。
  7. これらのファイルを Salesforce にデプロイ後、Service Console アプリケーションの App Builder を開き、Utility Bar にこの openCaseTab コンポーネントを追加します。

注意事項とベストプラクティス

Service Console の導入と運用には、いくつかの重要な考慮事項とベストプラクティスがあります。

権限要件

  • Service Console を利用するエージェントには、Service Cloud User ライセンスが割り当てられている必要があります。
  • プロファイルまたは権限セットで、ケース、アカウント、取引先責任者、ナレッジなどのオブジェクトに対する適切なアクセス権(参照、作成、編集、削除)が付与されていることを確認します。
  • Omni-Channel を利用する場合は、対応する「Presence Status(プレゼンス状況)」とルーティング設定に必要な権限が必要です。
  • Macros や Quick Text を利用する場合も、それぞれのオブジェクトに対する権限が必要です。

Governor Limits(ガバナ制限): Service Console のUI操作自体に直接のガバナ制限は適用されませんが、コンソール上で実行されるApexコード、Lightning Web Components(LWC)のコントローラ、またはAPIコールには標準のSalesforceガバナ制限が適用されます。

  • SOQLクエリ発行回数:同期Apex 100回、非同期Apex 200回
  • DML操作回数:同期Apex 150回、非同期Apex 200回
  • CPUタイム:同期Apex 10,000ms、非同期Apex 60,000ms
  • 1日あたりの非同期Apexメソッド実行回数:250,000回(またはライセンスユーザー数×200回、いずれか大きい方)
LWCで大量のデータを処理する際は、Apexの呼び出し回数やデータ量に注意し、適切なバッチ処理や非同期処理を検討する必要があります。

エラー処理: カスタムコンポーネントやApexコードを開発する際は、堅牢なエラー処理を実装することが重要です。

  • LWCでは、Promise の .catch() メソッドや try-catch ブロックを使用してエラーを捕捉し、ShowToastEvent でユーザーに分かりやすいメッセージを表示します。
  • Apexでは、try-catch ブロックを使用し、カスタム例外を適切に処理し、ログに詳細を記録します。
  • Omni-Channel のルーティングエラーは、Agent Work や Omni-Channel Supervisor を使用して監視・デバッグします。

パフォーマンス最適化

  • Lightning Record Page の簡素化:ページ上のコンポーネント数を最小限に抑え、必要な情報のみを表示するように設定します。不必要な関連リストやコンポーネントはページの読み込み速度を低下させます。
  • カスタムコンポーネントの最適化:カスタム LWC/Aura コンポーネントは軽量に保ち、不必要なデータクエリや DOM 操作を避けます。非同期処理を適切に利用し、初回読み込み時の負荷を軽減します。
  • 関連リストの制御:大量のレコードを持つオブジェクトの関連リストは、デフォルトで全件表示せず、フィルターやページネーションを適用して表示数を制限します。
  • ブラウザキャッシュとネットワーク:エージェントの利用環境のネットワーク速度やブラウザのキャッシュ設定もパフォーマンスに影響します。最新のブラウザの使用を推奨します。

よくある質問 FAQ

Q1:Service Console アプリケーションが表示されない、または期待する機能が有効にならないのはなぜですか?

A1:まず、ユーザーが Service Cloud User ライセンスを持っているか確認してください。次に、そのユーザーに割り当てられたプロファイルまたは権限セットで、Service Console アプリケーションへのアクセス権限、および必要なオブジェクト(ケース、アカウントなど)と機能(Omni-Channel、Knowledgeなど)へのアクセス権限が付与されていることを確認してください。App Builder で Service Console アプリが正しく設定され、ユーザーに割り当てられていることも重要です。

Q2:Omni-Channel のルーティングが意図した通りに動作せず、ケースが適切なエージェントに割り当てられません。どうすればデバッグできますか?

A2:Omni-Channel のルーティング問題をデバッグするには、以下の点を確認してください:

  • ルーティング設定(Routing Configuration):優先順位、ルーティングモデル、スキルベースルーティングの場合はスキル要件を確認。
  • プレゼンス設定(Presence Configuration):エージェントの許容キャパシティとステータスを確認。
  • エージェントのスキル:スキルベースルーティングの場合、エージェントに適切なスキルが割り当てられているか確認。
  • Agent Work オブジェクト:これはルーティングされた作業アイテムの状況を示すオブジェクトです。デバッグログやDeveloper Consoleでこのオブジェクトのレコードを監視することで、ルーティングの過程と失敗原因を特定できます。
  • Omni-Channel Supervisor:リアルタイムでエージェントやキューの状況、ルーティングされたアイテムを監視できます。

Q3:Service Console のページの読み込み速度が遅いと感じることがあります。パフォーマンスを監視し、改善するにはどうすればよいですか?

A3:Service Console のパフォーマンスを監視・改善するには、以下の方法があります:

  • Browser Developer Console:Chrome や Firefox などのブラウザのDeveloper Console(開発者ツール)を開き、「Network」タブでページの読み込みにかかる時間や各リソースのダウンロード時間を、「Performance」タブでLWCやAuraコンポーネントのレンダリングパフォーマンスを分析します。
  • Lightning Component Performance Analyzer(LCA):Salesforce Labs が提供するこのツールは、組織内の Lightning コンポーネントのパフォーマンスを分析するのに役立ちます。
  • Page Analyzer for Lightning Experience:Salesforce Health Check でこの機能を確認し、Lightning Record Page のパフォーマンスボトルネックを特定します。
  • Apex Debug Logs:ページ読み込み時に実行されるApexトランザクションのログを分析し、遅いクエリや処理を特定します。
  • ベストプラクティス適用:上記の「パフォーマンス最適化」セクションで述べたベストプラクティス(コンポーネント数の削減、カスタムコンポーネントの最適化、関連リストの制御)を適用してください。

まとめと参考資料

Salesforce Service Console は、顧客サービス業務を変革し、エージェントの生産性向上、顧客満足度の向上、そしてサービス運用の効率化を実現する強力なプラットフォームです。その柔軟なカスタマイズ性、豊富な標準機能、そして拡張可能なアーキテクチャは、あらゆる業界の顧客サービス組織にとって不可欠なツールとなります。

Service Console を最大限に活用するためには、ビジネス要件に合わせた適切な設定と、パフォーマンスを考慮したカスタマイズ、そして継続的な監視と改善が重要です。本記事で紹介した技術原理、実装例、ベストプラクティスが、貴社のService Console活用の一助となれば幸いです。

公式リソース

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